百四夜目『訴え』
これはAさんが東京都で体験した話です。
妹が救急車で病院に搬送された
と、妹と一緒に住む彼氏から突然電話が入った。
時間は午後8時。家族全員で自宅で夜ご飯を食べ終え、ゆったりとしていた時に、その連絡はあった。
彼氏曰く「僕は家族では無いので入院などの手続きは出来ない。大変申し訳ないのだが、今から至急来て入院の手続きをして欲しい。」との事。
日中おもいっきり外で遊んでいたので、身体はクタクタだったのだが、急いで身支度を整えて、夫と2人で自宅を出発をした
何故救急車で病院へ運ばれる事になったのか。
今どのような容態なのか。
夜間に急に呼び出されたので、容態は余り良くないのか。
取り留めもなく不安だけが頭を埋めつくした。
病院は高速道路も使って1時間30分かかる場所にあり、夜間の高速道路は交通量も少なく、早く病院へたどり着きたいという思いもあってか、いつもより速度は出ていたような気がする。
その時、後部座席から女性の呻き声らしき音が聞こえてきた。
『うぅ…ゔぅ…ゔぅ…』
なんとも苦しそうな呻き声が3度ほど。
運転席と助手席にしか人が居ない車内から聞こえてきた声に、夫と私は思わず顔を見合わせた。
私だけにしか聞こえていないと思っていた声が、実は夫にも聞こえていたのにも驚いてしまい、一瞬妹の事について話していた会話が途切れた。
「あの声は一体なんだったんだろうね。何かを伝えたかったのかな。何だか不気味だね」
私たちは話し合いながら病院へ向かい、何とか入院の手続きを終える事が出来た。
その後、無事に妹は体の調子も良くなり退院。
後日妹と入院していた時の話をした際、妹から
「集中治療室で眠っていた時に、2人が高速道路を走って病院に来る夢を見たのは覚えているんだ。その夢を見ている時に、2人に話し掛けたくて必死になっていたの。でもなかなか声が出なくて。結果唸っていたんだよね。何だか変な夢なんだけど…」
と言われた。偶然の一致なのか、はたまた何かあったのか…は分からないが、夫と私の2人にとっては、とても怖くて奇妙な体験となった。