百九十三夜目『ビルの怪異』
これはYさんが東京都M区で体験した話です。
もうかれこれ15年以上前の事、M区のMビルが完成し、しばらくしてから私が証券会社で働いていたときの話になります。
その日は仕事が重なりクライアントからの問い合わせの処理で帰宅する時間が深夜になることが予想されたので、仮眠室で2時間ほど睡眠を取るために、42階のブレイクルームで休憩をしていました。
しばらくすると部屋の電気が急に消えてしまい、驚いた私は咄嗟に目を開けて体を動かそうとしましたが、体は全く動きませんでした。
私は疲れているときにはごく稀に金縛りに遭う経験をすることがありました。金縛り自体は慣れているので、しばらくすれば落ち着くだろうと思い天井を見上げていましたが、なぜか徐々に恐怖感に包まれて行きました。
何かがおかしいと思い、見上げていた天井から視線を平行に持っていった時、白い服を着た女性が私の目の前に現れました。
私はびっくりしましたが体が動かず、焦れば焦るほど恐怖感に包まれ、そしてその女性は私を見ると笑いました。
よく見ると女性の目は穴が開いており、眼球はなく、ずっと微笑んでいました。
肩をトントン叩かれてやっと金縛りが解けるのと同時に、女性はいなくなり部屋には明かりがついていました。肩を叩いたのはこのビルの警備員で、私を起こしに来てくれたようでした。
今しがた経験した話を警備員にしたところ、警備員の方もそういった経験をされたことがあるそうです。
この経験が何なのか。警備員曰く、実はこのMビルが建てられる前、この土地には墓地がたくさんあったそうです。
民家もあり立ち退きを命じて強引に建設が進み、その怨念がこのビルに住み着いているのではと。警備員が経験したのは、下半身がない兵隊さんが匍匐前進をしている姿を見たり、誰もいないのに自動ドアが開いたり、そのような経験が頻繁にあるそうです。