百九十一夜目『見える母』
これはGさんが熊本県M市で体験した話です。
学生時代、一人暮らしをすることになった私は、父・母と不動産屋を訪れました。
そこで数件の不動産資料を見比べ、そのうち2件を内見させていただくことになりました。
1件目の内見の際、普段おしゃべりな母が妙に静かになったことが気になりつつ、そこでは決まらずに2件目へ。
2件目は、2階の角部屋で、日当たりも悪くなく、新築ではないものの古すぎることもなく。と、ほぼ私の希望通りだったので、そこを契約することにしました。
帰宅途中、母になぜ1件目の内見時に静かになったのか尋ねると、
「階段の下に女の子がしゃがんでいた。あそこはよくない」
と、言いだしました。
もちろん、父や私には女の子は見えていません。
でも、母はその後も
「あそこにいた。2件目に決めてくれてよかった」
と、つぶやいていました。
それから2年ほど経ち、そんな出来事も忘れて課題やレポートに追われる日々を過ごしていた私は、ある日、炬燵で寝落ちしてしまいました。
どのくらいの時間仮眠していたのか覚えてはいませんが、しばらく経って目を覚ますと、体が全く動かず、金縛りにあっていました。初めての金縛りに、どうしたものかと考えていると、キッチンスペースとリビングスペースを隔てる扉を開ける音が聞こえました。冷や汗は出るものの、首すら動かせない私は何も出来ず、少しして扉を閉める音が聞こえたと同時に、金縛りから解放されました。
怖いながらもすぐに玄関を確認しましたが、玄関扉の施錠はされており、人が侵入した形跡もありませんでした。
後日、母に電話でこのことを伝えると、
「大丈夫、その部屋はただの通り道だから。気にしなくてもいい」
と。実は、私の部屋の窓からは、少し離れたところに、あの内見時に見送った1件目の物件が見えていたのです。
その後、私は何事もなく学生時代を終えることが出来ましたが、今でも引っ越しをする際は、母の意見を聞くようにしています。