九十七夜目『インターホン』
これは北海道W市でKさんの旦那様が体験した話です。
夫が会社の社宅で経験した話。
夜寝ている時に、夫は当時5階に住んでいたのだが、夜中に階段を登る音が響いてきたそうだ。
コンクリートの階段を一歩一歩、コツン、コツン・・・と上がってくる靴音が。
夫はその音に目が覚めてしまった。隣に住む夫婦の旦那さんがよく深夜に帰ってくることがあったから、また彼がお酒でも飲んで遅くに帰宅したのか・・・と思ったので
「ああ!うるさいな。起きちゃったよ」などと思いながらそのままうつらうつらしていると、何故か夫の部屋のチャイムがなった。
ボタンを押すと「ピーン」となり離すと「ポーン」となるものだったのだが、聞こえたのは
ピーン…
という音だけ。
「隣の人が酔っぱらって家を間違えてチャイムを押したのかな?なんて非常識なのだろう」と腹立たしく思い、更に耳を澄ましていたのだが、その後もいつまで経っても「ポーン」の音が聞こえて来ない。かと言って隣人が隣のドアを開ける音も聞こえない。
ピーン…となったまま、しばらく沈黙が続いた。それはつまり、誰かがチャイムを押したままそこに佇んでいるということ。
すると、いきなり金縛り状態になり、突然耳元で
うぅぅう…
とうなり声が聞こえる、そのようなことが何度かあったそうだ。
夫は怖いのと金縛りにあって動けない為、その者の正体を確かめた事はないのだが、その社宅は海辺の街の埠頭の横にあり、よく自殺された方が潮の流れの関係でその辺りまで流れ着いてしまうような事があったそうだ。
この現象はそのことと何か関係があったのかは分からないが、ピ-ン…という冷たい音とその後の静けさの長い時間。今でも忘れられないそうだ。