十一夜目『乗せてきた』
これはSさんが長野県M市で体験した話です。
Sさんは当時小学生中学年くらいの事、母の実家で祖父や祖母と一緒に住んでいたそうだ。
祖母は登山が好きで、休みの日によく友達と八ヶ岳などの山に登りに行っていた。
その日も朝早くから八ヶ岳へ登りに行ったのだが、いつも元気に帰ってくる祖母の様子が今日は少し違った。
「大丈夫?」
「…大丈夫だよ」
とぼーっとしているような返事が返って来たので心配になった。
Sさんはいつも母と祖母と同じ部屋で寝ており、その日も2人に挟まれるように川の字になって布団に潜った。
Sさんは寝つきが良く、直ぐに眠りに落ちたのだが、その夜は祖母の呻き声で何度も目が覚めた。「ぅぅぅう」と苦しそうに祖母が呻く度に母が背中をさすっていた。
翌朝以降から、祖母はよく
「重い…肩が重い…頭が痛い…」
とよく呟くようになり、みるみるやつれていったそうだ。
丸顔で少し小太りな祖母が、食欲もあまりないせいか顔色も悪く、頬が少しこけて目の下のクマもひどくなっていく様を見て、Sさんは怖いと思ってしまった。
一週間ほどして母が、
「おばあちゃんの具合がよくないから病院に行ってくるね」
とSさんを置いて祖母と2人で出かけて行った。もしかしたら祖母は以前のような元気な姿には戻らないかもしれない。最悪このまま帰って来ないかもしれないと一人で不安になっていた。
だいぶ長い事留守番をしていた気がする。
「ただいま」
玄関の開く音と母の声を聞き、急いで出迎えに行くと、母と一緒に帰ってきた祖母の顔色は血色が戻っていて少し元気そうに見えた。それから食欲も戻り、2~3日後にはいつもの祖母に戻っていた。
あとから聞いた話だと、2人は病院ではなくお祓いに行っていたそうだ。どうやら山で霊に取り憑かれたようで、肩にずしっと霊が乗っていると言われ、そのせいで肩が重くて頭が痛かったのだと、お祓いをしてくれた方が説明してくれた。
山にはたくさん霊がいて、少し体調が悪かったり、精神的に疲れていたりすると取り憑かれやすい。
たまたまきちんとお祓いしてもらえる人がいたので良かったのですが、あのままだったら祖母はどうなっていたんだろう…と思うとゾッとします、とSさんは話した。
登山する時は皆さんも気をつけて下さい。