百八十二夜目『落下する音』
これはKさんが大阪府Y市で体験した話です。
一人暮らしの友達Aの家に、私とB、Cで泊まりに行った夜のこと。
お酒を飲みながら恋バナをしていると、唐突にAが
「そういえば皆、泊まるの初めてだよね。このマンション、出るんだよね」
と、言い出した。
「出るって何が?」
「幽霊。3年前にこのマンションの外廊下から飛び降り自殺をした人がいるんだけど、夜中にね、その時の音が聞こえるの」
「音って?」
「ほら、あれだよ。飛び降りした人が地面にぶつかる音」
「えー、まさか。何かの聞き間違いじゃない?」
「本当だよ、彼氏も聞いたし、隣の部屋の人も聞こえたって言ってた。あ、もうすぐだよ」
Aが深夜3時を示す置時計を指さした瞬間、まるで地面に重たい何かがぶつかったようなドーンッという音が聞こえた。
「皆も聞こえたでしょ?この時間にこの音が聞こえるの。でも、ベランダに出て地面を見ても何も落ちてないんだよね」
私もBもCも、何か他の音がたまたま聞こえただけで、Aが嘘をついて怖がらせているのだと思っていた。
だから翌日の深夜にAの家に行って、3時にベランダに出て、音が鳴ったらすぐ下を見ようという話になった。
翌日、昨日と同じメンバーでAの家に行って、音が鳴るという深夜3時少し前にベランダに出て待っていた。
もうそろそろ3時だね、あ、3時になったよ
なんて話していると、私達の目の前を何かが落ちていき、その後すぐにドーンッという昨日と同じ音が聞こえた。
下を見ても何も落ちておらず、目の前を落ちていったのはなんなのか、本当にこの世のものじゃないのかもしれない、なんて話しながら部屋の中に入り、翌朝それぞれの家に帰った。
怖くて、未だにあの時一緒に居たメンバーの誰にも言えていないのだが、実はベランダで見た落ちてくる何かは、苦悶の表情を浮かべた私だった。
あれ以来Aの家には行っていないが、恐らく今でも自分の顔をした落ちる人影と、地面に体が叩きつけられる音は聞こえてくるのだろう。