これはSさんが三重県Y市で体験した話です。
それが起きたのは19歳の頃。
朝、大学に向かう途中。駅までは自転車で10分程。
その途中に大きな下り坂があり、自転車に乗っていると自然とスピードが出てしまう。下った先に十字路があり、朝は割と車通りもある。
その日もいつも通りブレーキを握りながら坂を降りて行き、一時停止して十字路を渡ろうとした。
車が右から来ているのを確認したけれど、道幅は狭く、大きめの対向車もいるし今なら通れると思い、自転車を漕ぎ出した瞬間目の前が揺れた。
スローモーションで自転車が自分から離れていく。
──あぁ、私今、右から来た車のボンネットにいる。
身体を強く打ったのか、車の窓ガラスにヒビが入っている。
自転車は歪み、ぽたぽたと垂れる血を感じながらも
「すみません、遅刻するんで行きますね」
そんな事無理なのに私の口からはそんな言葉が出ていた。教科書も拾いあげていた。痛みはあまり感じていなかったが見た目は血だらけだったそう。
救急車が呼ばれて担架に乗せられて処置を受けたり検査を受けたりしたが鎖骨が3つに折れていて足の付け根に水が溜まっていたくらいで済んだ。血だらけだった顔は頭の表面が切れていただけで3針縫って終わった。
しばらく入院して鎖骨にボルトをはめて退院。
そんなことがあったのだ。
一年後、親が自宅を売却し新しい一軒家へ引っ越しをした。駅からはすごく近いので、もうあんな事故にはならないだろうと思っていた。
一年も経つと鎖骨の骨が再生されるので再入院し、ボルトを外す手術を受けていた時のこと。
またあの場所で私と同じような事故が発生したのだと聞いた。あの時の私と同じ19歳の女の子。自転車に乗っており、右から来た車と衝突。全く同じだ。
「それで、彼女はどうなったんですか?」
看護師に尋ねると、今治療中で危険な状況であることだけ告げられた。
後日、亡くなってしまった事を聞き、知らない女の子ではあったが、とても悲しい気持ちになった。
死亡事故の後、あの十字路の道路には赤く色が塗られ、そこを通る人全員に警告された。
怖かったのは、その亡くなった彼女は
私の引っ越す前の自宅に引っ越してきていたという事を知ったとき。
あの家にいたら、また何か起きてしまったのかもしれない。