八十二夜目『城跡近くの女性』
これはMさんが茨城県M市で体験した話です。
母はもともと「霊感がある」と自分で言う人で、今では本当かどうかも分からないけど、霊感のない兄と私も一緒に遭遇した話。
近所に昔お城が建っていた跡地ががある。当時の母は軽量の荷物を届ける運送業のバイトをしていた。配達する際に子供も同伴できることから、母はそのバイトをしながら、車で兄と私を一緒に連れて回ることが多かった。
小さかった私は全く記憶にないのだが、わずかに兄は記憶があるそうだ。
それは雨の日のこと。大雨が降る中、車でいつもどおり配達していた母がその城の跡地付近に車を停車させた。荷物を渡して無事に戻る前に白い影を見たそうだ。
背中が震えるような感じがあって、それが生きていない物だとすぐ分かった。
とにかくこの近くから離れないと、思い急いで車に戻り、エンジンをかけてその場を離れた。すると兄が運転する母に向かって言ったそうだ。
「お母さん、さっきの場所に戻ろう」
母は嫌な感じがしたし、戻りたくない思いがあり、兄に
「どうして?」
と、尋ねると
「白いワンピースを着たお姉さんが雨の中ずっとこっちを見ていたよ。風邪ひいちゃう。傘貸してあげよう」
と言ったそうだ。母は「お仕事中だから、急がないとね」とはぐらかしてそこは出来るだけ通らないようにした。
母曰く、雨の日にお城跡は近づいちゃいけないよ、と言うようになったのはその日からだそうで、そう言われていた記憶は私にもある。
結局、その城跡と女の人の関係は全く分からないまま、今も私は母に言われた通り近付かないようにしている。