これはTさんが京都府K市で体験した話です。
今から10年くらい前、京都の有名な観光地の近辺でアルバイトをしていた。昼間であれば修学旅行生や観光客がたくさんやってくるのだが、夕方から夜にかけては少し民家から離れているので、そこまで人とすれ違うことはない、というくらいひっそりとしていた。
私は貧乏学生だったので、原付で下宿先まで通っていたが、いつも使っている原付のキックが壊れてしまったので、その日は歩いてバス停まで帰ることにした。
何本も乗り継ぐのも面倒で、少し歩いて自分の下宿の近くまで行けるバス停まで向かう途中、バス停までの道のりにある鬱蒼とした林を抜けて寺の角を曲がろうとした時、
「あの…」
おばあさんに声を掛けられた。
少し古い感じの服を着たおばあさんで、観光客が迷い込んだのか?と思ったが
「すみません、ここはどちらですか?」
と関西の訛りではない言葉で聞かれたので、
「そこのお寺の帰りですか?観光で来られたのなら、宿のあるところまで行くバスお調べしますよ?京都駅ですか?」
と答えた。
「じゃあお願いします」
とおばあさんに返され、一緒にバス停まで行くことにした。自分が学生であり、京都の人間ではないことを話すと、おばあさんもホッとしたようで、ポツポツと話すようになった。私も和やかに話していたつもりだった。
「…私の息子が殺されてね、私も悔しくて悔しくてくそーあのXXを殺してやる!と思って死んでしまったの」
おばあさんがいきなりそんな事を言い出して、私はギョッとした。ちょっとヤバい人だったのかなと思い、目を合わせないよう前だけ向いて歩いていた。
「それで、その男を殺してやろうと思ってね、ずっと後ろをついて行ったの。そしたらね、ここに連れてこられて置き去りにされたの。私、まだまだあの男を苦しめないとならないからね、ここから帰れるのね。ありがとうね、お兄ちゃんね、悪いことはしちゃダメよ」
あまりにも物騒な話をし始めたのでおばあさんの方を向くと、たった今話していたおばあさんの姿は消えて無くなっていた。