五十八夜目『上階の住人』
これは福岡県K市に住むMさんから聞いた話です。
Mさんの母の実体験だ。
Mさんが生まれてから小学校4年生まで古いマンションに住んでいた。Mさんが2歳になる頃、トイレが急に使えなくなったり台所の隣にある物置として使ってた部屋の天井から廊下にかけて水漏れが起こるようになった。
もしかしたら一つ上の階が原因ではないのかと思い、業者さんに調査の依頼をしたそうだ。しかし原因は不明で調査料だけ払ったのだが、不思議と水漏れが止まったので安心していた矢先に、上の部屋から何を話しているか分からない怒鳴り声や叫び声、奇妙な奇声が聞こえて来たようだった。
それが連日、昼夜問わず聞こえるので家庭内トラブルか何かを疑った母は、警察に通報して大家さんへ事情聴取をしたらしいのだが、
「その部屋には誰も住んではいません」
との事。万が一、侵入している人がいる可能性も捨てきれないと、警察官はその部屋まで母と一緒に様子を見に行った。
ドア一枚隔てた部屋からは、この瞬間にも怒鳴り声が聞こえていた。
「警察です、大丈夫ですか?ドアを開けてください!」
警察官はノックして叫んだのだが、さっきまでの怒鳴り声は止み、部屋からは物音一つしなくなった。
あらかじめ大家さんから借りたスペアキーで開けてみたものの、家具や家電製品すら無く、人も虫も動物もいない。
さっきまで確かに声を聞いていた二人は、顔を見合わせて硬直してしまい、しばらく身動きが取れなかったそうだ。