六十五夜目『訪ねてきた女の子』
これはMさんが静岡県H市で体験した話です。
私が小学6年生の時。当時両親と弟の4人でアパートに住んでいた。
それは18時頃、その日家には母と私の2人で、父と弟の帰りをリビング待っていた時の事。遠くから
「シャンシャンシャン」
と鈴のような音が聞こえてきた。その音がどんどん大きくなってきたかと思うとピタッと止まり、家のチャイムが鳴った。
私と母はなんだろうと思い、2人で玄関に向かった。当時小学生で少し好奇心もあり、私が先に玄関の覗き穴から外を覗くと、いかにもという感じの、黒くて長いボサボサの髪、白いワンピースを着た、10歳くらいの女の子が立っていた。
顔は髪に隠れて見えなかったけど、私は怖くなり、母にも覗いてみるよう促した。
「ちょっとお母さん、何してるの!?」
母は覗き穴を覗くと、なぜか玄関のドアを開けようとした。
明らかにこの世のものではない感じがしたので、私は必死に母を止めた。何とか母を玄関から離して、しばらくすると
「シャンシャンシャン」
という鈴の音がまた聞こえ始め、今度は徐々に遠ざかっていった。
(居なくなったかな)
私はそっと窓から外を見てみると、アパートの駐車場にさっきの女の子が立っていて、私の家を見上げていた。顔は相変わらず髪に隠れて見えないが、目が合った気がした。
慌ててカーテンを閉めてリビングに戻った。それからその女の子がどこに行ったのかは分からない。あの時なぜ母がドアを開けようとしたのかも未だに分からないのだけど、何となくあの話はタブーみたいになっていてあれから1度も話題に上がったことはない。