百五十六夜目『過去からの電話』
これはMさんが群馬県S市で体験した話です。
高校生の頃の事。
夕ご飯ができるのを実家のリビングで待ちながらテレビを見ていると、急に電話が鳴った。
母はご飯を作っていて、父は持ち帰った仕事を書斎でしていたので、手の空いていた私が電話に出た。
「はい、○○です」
私が出ると、年配の女の人の声で
「あの、Tさんはいらっしゃいますか」
と聞こえた。
「え、Tですか?」
私はびっくりして少し変な声を出してしまった。
Tというのは、私が小学校2年生の頃に亡くなった祖母の名前だったからだ。
この時すでに祖母が亡くなってから、8年ほど経っていた。
「あの、もう亡くなっていないんですけど…」
私が答えると、電話口の女性は驚いたように
「え、今年で77くらいで…おられますよね、おばあちゃん」
女性のその言葉に、高校生の私でもさすがに変だなとすぐに気付いた。
77歳というのは、祖母の亡くなった年齢であり、そこから8年ほど経っているので、生きていれば84歳ということになる。
同級生ならば年齢を間違えるわけがないし、何かの勧誘だとしても、生年月日を確認してからかけているだろうから、それもおかしい。
この人はなぜ、祖母が77歳だと言っているだろう。
私が困惑しているのに気が付いた母が、
「ちょっと変わって」と近づいてきた。
私が母に受話器を手渡そうと思った途端、電話は切れてしまった。
あの女性はいったい誰だったのだろうか、あの電話は過去からの電話だったのだろうか、謎のままだ。