百十三夜目『授乳室の女』
これはLさんが北海道O市で体験した話です。
わたしが出産のために入院をしていた時のこと。
その病院は入院している部屋から授乳室に行くまでに長い廊下を通らなければいけなかった。しかも夜になると電気もほとんど消えていて、なんとなくざわっとしたのをおぼえている。
出産してすぐの夜、授乳しに向かうと一人の女の人と廊下ですれ違った。その時は同じ日くらいに出産した人かなと気にもとめなかった。
その次の日、また次の日とまったく同じタイミングですれ違った。たまたまにしてはあまりにも頻度が多く、不思議に思った私はすれ違いざまにふと後ろを振り返ると、今さっきすれ違ったはずの人がもういなくなっていた。
こんなに長い廊下、普通に歩いていくとそんなにはやく進めないはず。
少し怖くなって看護師さんに相談してみたところ、今授乳室を使用出来るようにしていのはあなただけだよ。他の人と時間かぶらないようにしているからねと言われた。
当時感染症が流行っていて、極力他の人との関わりを持たないように使用時間をそれぞれ配慮していたようだった。
それじゃあ、あの人は誰だったのだろう。時間間違えたのかなとあまり深く考えないようにする事にした。
そしていよいよ退院前日となった、最後の夜のこと。その日はなんとなくあまり眠る事が出来なかったのだが、授乳の時間になり授乳室へ向かった。
最後の日、あの女の人とすれ違うことがなかった事に少しだけホッとして、授乳しながら我が子の顔を覗き込んだ。
ベッドの下から青白い顔をした女がこっちをにらみつけているのが、視界の端にはっきりと見えた。
気付いてないふりをして、わたしはナースコールを押したが看護師さんが来た時にはもうその女はいなくなっていた。
次の日わたしは退院した。念のためお払いもしてもらった
後から聞いた話だが、この病院では出産時に亡くなった女の霊が出るそうだ。