六十七夜目『ただいま』
これはKさんが神奈川県S市で体験した話です。
秋から冬にさしかかり肌寒くなった季節の事。
私はキッチンで少し急ぎながら夜ご飯の準備をしていた時
「ただいま」
と、主人のいつもより暗い声がした。
「おかえりなさい」
と答えると、私の後ろを通り、キッチン横にある窓を開け、主人がベランダに出ていく気配がしたので
「たばこ吸いに行くの?」
と聞くと
「うん」
と言ってベランダに出ていった。それから1分もしないうちにベランダから戻ってきた気配がしたので
「早いね」
と声をかけると
「うん」
と返事をして、また私の後ろを通り反対側の扉から廊下に出ていった。
その5分後位に
「ただいま」
と今度はいつもと同じ明るいの主人の声。え?と思い振り向いて
「おかえりなさい」
と答えると、ヘビースモーカーでもない主人が
「タバコ吸ってくるね」
とベランダに行こうとしたので
「また?」
と聞くと
「え?今帰ってきたんだよ?」
と不思議そうな顔で答えたので、数分前にあった事を主人に話した。
主人に話していて気づいたのだが、いつもより暗い声で「ただいま」と聞こえて、私は振り向こうとしたのに、何故か振り向いてはいけないと思った事。そのあとも何度か振り向こうとしても振り向けなかったのだ。
それから数年後に知った事なのだが、あの時キッチンで夜ご飯を作っていた私の後ろのリビングに、当時6歳と4歳の娘が遊んでいて、私が
「おかえりなさい」
と一人で話しているのに娘が気づき
「ママ、誰も帰ってきてないよ」
と言ったらしいのだが、その声はまったく聞こえていなかった。