これはIさんが福岡県K市で体験した話です。
Iさんが小学生の頃、両親の仕事や病気の都合で一時的に児童養護施設に世話になったことがあった。そこの規則としては学校から帰ってきたら、まず宿題を終わらせる。それ以降は自由時間、夕食、そして20時に就寝する決まりであった。
その日は朝6時に起きて、みんなが勉強をする為の部屋を掃除する当番で、同じ境遇の先輩と悪ふざけをしたりからかい合いながらも掃除をして、登校に向けた準備もしていた。
その部屋の窓ガラスは白いくもりガラスになっていたのだが、窓の外に何か通ったような気がしてIさんは目で追ったそうだ。
それでも先輩はちょっかいを出してきた。
「少しやめてくれ、今さっき何か通ったような気がする」
「そんな嘘は良いって。馬鹿らしい」
そう言われた瞬間、黒い人影が横切って行くのが見えた。先輩もその黒い人影を目にしたのか一瞬で大人しくなり
「ごめん…俺も今の見たわ」
と言った。それはただの人影なのだが、言葉では言い表せない、嫌な感覚がしたそうだ。2人で正体を確かめようと窓を開けて外を確かめたのだが、さっき横切ったと思われる人の姿はなかった。
辺りには死角になるような物も無く、そんなに早く移動していたようにも思えない。
窓を閉めて、何かおかしいと話していると窓を挟んですぐ隣を、人影がすっと通り過ぎた。
先輩と目が合ったIさんはすぐに窓を開けて確認したのだが、それでも正体は掴めなかった。
その施設のベテラン職員にそのことを話すと、この児童養護施設ができる前は墓場だったらしく、施設が出来ることが決まり墓場を取り壊されたことが原因で、今でも自分を供養できて眠れる場所を求めていると聞かされた。
何故か断言する職員に「何か見たんですか?」と尋ねると、
「言ったら、君たち来なくなるでしょ?」
と、笑われたそうだ。