四十二夜目『煙』
これはWさんが愛知県T市で体験した話です。
盆に合わせて久々に地元に帰ってきたWさんは、実家で不思議な体験をした。
両親と祖母は健在なのだが、祖父は早くに亡くなっていた。大好きなタバコが原因で亡くなったのだ。
祖父はとても優しかった思い出が、僅かながらにある。墓前で手を合わせて墓を綺麗にして、Wさんは実家でゴロゴロしていた。
「おう、帰ってきてるのか」
しばらくすると親戚の叔父さんが訪ねてきた。仏壇に置かれてる祖父の写真に向かって手を合わせて、線香をあげるとタバコを一箱供えていた。
叔父さんの家族を交えて、居間でちょっとした宴会が開かれている中、
「きゃー!」
母親の悲鳴が仏間から聞こえてきた。慌てて様子を見に行くと、仏間が煙で充満していた。みんなで火事か?火元はどこだ?と探し回ったが見つからなかった。
とりあえず煙を全部外に出すよう換気をすると、煙は瞬く間に消えた。
線香から出た煙にしてはあまりにも多すぎるが、原因は分からない以上調べようがない。
また居間に戻って宴会の続きをしていたのだが、祖母が仏間に向かうのが見えたので、Wさんも何の気なしについて行った。
仏間の扉を開けた途端、また中から煙が溢れ出てきた。
「これ、タバコの煙でねぇかい?」
祖母に言われて、確かにタバコ臭いという事に気付いた。叔父さんの供えたタバコを見に行ったが、火はおろか開けられている様子もない。訝しんで見ていると、
「このタバコ、じいさんの吸ってたタバコと違うわ」
タバコの銘柄までは覚えていなかったWさんだったが、祖母が新しく買ってきた別のタバコと交換すると、それから煙は出なかったという。