三十八夜目『練習中の一枚』
これはBさんが兵庫県K市で体験した話です。
Bさんが高校生だった頃の事、当時クラッシックバレエを習っていて、その日は発表会が大きなホールで行われていた。
午前中はホールの舞台上で本番に向けてリハーサルをしていて、Bさんの出演部分以外は空いている場所でストレッチなどをして過ごしていたところ、父親がBさん一人でいる所を写真撮影したそうだ。その時Bさんは練習着である黒の半袖のレオタードを着用して、元気にピースしていたはずだった。
午後の発表会も無事に終わり、帰宅準備をしていた時、
「午前中に撮った写真はスピード現像に出したから、写真を受け取ってから帰るぞ」
父親が写真屋に寄り、受け取った写真を家族で見ていたのだが、練習中にピースして撮った写真には、バレエ用の濃いメイクで戯けた顔をした、両腕の無いBさんが写っていた。
半袖のレオタードを着ていたので、腕を隠すこともできないし、ピースをしていたのを覚えている。しかし写真にはBさんの腕だけが完全に消えていて、後ろの会場内の様子がはっきり写っていた。
とても怖かったが、どうすることもできずBさん達はそのまま自宅に戻った。
帰宅後、先にリビングに入った父親が大きな声で
「あ!!」
と叫ぶ声が聞こえた。
「どうしたの?」
と急いで駆け寄ると、リビングのピアノの上に置いてあったパンダのぬいぐるみの両腕がポトリと下に落ちていた。
今朝家を出る時、ぬいぐるみは普通の状態だったので、両腕共に取れてしまっている事が不思議で仕方がなかった。
「きっと身代わりになってくれたんだね」
父親はそう言うと、その腕を縫い付けてくれた。
幸いBさんの身には何も起こる事なく、現在も元気に過ごしている。今思い出しても不思議な体験だ。