これはYさんが東京都A区で体験した話です。
Yさんは昔病院で働いていたそうだ。受付で事務をやっていたのだが、仕事が終わらなくて残業することが多くあった。
夜七時ごろには外来の患者さんは一人もいなくなり、昼までの喧騒が嘘のように静まり返る。
外来の患者さんがすべて帰ると、受付以外の電気は消して残業は受付の明かりだけで行っていた。
「ちょっとトイレ行ってくる」
「はーい」
同じ受付の同僚がトイレに行ってしまい、Yさん一人になったとき、背中に嫌な寒気を感じた。
はじめは風邪でも引いたかなと思っていたYさんだったが、背後に気配を感じたので振り返ると、カーテンがひらりと動いた。
同僚がトイレから帰ってきたのかと思ったが、カーテンからこちらを見ていたのは同僚とは明らかに別人の色白の女性だった。カーテンの向こうは暗いからか、やけに青白い肌の女性が酷く不気味に思え、声も出せず視線を手元に落とすことしか出来なかった。
Yさんの手は急に震えだし冷汗が止まらなくなった。女性の姿はすぐに見えなくなり、少しすると同僚がトイレから戻ってきた。Yさん自身も平常心を保っていられない状態だったが、同僚の様子もおかしい。
何かあったのか尋ねると、
「トイレに誰もいないのにすすり泣く声が聞こえてきた」
と震えながら教えてくれた。
Yさんが今さっき体験した話を同僚に教えると、同僚も更に怖がってしまい、2人ともこれ以上この病院で勤務するのは無理だという結論に至り、同じタイミングで退職をしたそうだ。
Yさんたちは受付だったので知らなかったのだが、のちに知り合いの看護師に聞いたところ、夜の病棟ではよくある話だそうで、霊感が強い人は病院の夜勤はやっていけないよと言われていたそうだ。