十六夜目『絶対殺してやる』
これはTさんが愛知県O市で体験した話と、その後の話です。
Tさんが高校生の頃、自宅の二階の自分の部屋のベッドで横になっていた時のこと。
それは冬の寒い頃で、眠りに落ちようとしていたとき耳鳴りがした。金縛りに合う前のいつも起きる予兆だと分かった。
しかし、分かっていてもすでに体の自由は徐々に奪われているような、気付いた時にはいつもどうする事も出来ない状態。Tさんの対処法は全てが終わるのをじっと待つ事だったそうだ。
その時もずっと目を開けずにじっと耐えていたのだが、この時の金縛りはしばらく続き、いつもと違う感覚に襲われた。
体全体がギューッと押されるような感覚でベッドに沈んでいく。いつもと違う現象に為す術もなく、Tさんはされるがままになっていた。しばらくして押される感じが終わったと思うと、今度は少し浮いた感覚に変わったそうだ。
(早く終わって!)
Tさんは怖くて目は開けられずにいると、その後また押される感じでベッドに沈められ、その後また浮く感じが3回くらい続き、恐怖のあまり過呼吸になりかけているとその現象が不意に終わった。
(今日のはなんだったんだろう)
金縛りから解放されホッとした瞬間、
「お前を絶対殺してやる」
とドスの効いた声が聞こえた。布団を払い除けるように跳ね起きると、冬なのにも関わらず全身が汗でベタベタになっていた。ベッドから離れて気付いたのだが締め切っていた窓が何故か開いていたそうだ。季節は冬なので窓を開けた記憶が全くなかったTさんは急いで窓を閉めて、一階で寝ていた親のところに逃げ込み、しばらくは部屋に入ることも怖くなった。
実際その後は何もなく、それから数十年が経った頃、Tさんはある男性と結婚をしていた。その時の旦那は怒ると手の付けられない人でDVの被害を受けていたTさんは、殺されるかもしれないと身の危険を感じるほどだった。
そんな旦那にTさんはふと、あの金縛りの話をした事があった。
「殺してやるって言ったのは、もしかしたら俺なのかもしれないな」
話を聞いた旦那が笑いながら言った言葉がとても怖かったそうです。
誰に話してもなかなか信じてもらえない話だけど、あの金縛りにあったのは旦那と出会うずっと前の話なのに、あの声も旦那のと似ていた気がするんです、とTさんは話した。現在はその男性と別れる事が出来て、幸せに暮らしている。