四夜目『手招きする男』
これはSさんが、埼玉県I市の高校に通っていた時に体験した話です。
当時、通学路の道沿いに立ち入り禁止の竹やぶがあった。
竹が生い茂っていて、その周辺は陰になってなかなか日が当たらず、いつも暗いイメージがだった。
生い茂った中は暗くて何も見えず、ずっと見てたら何かが出てくるのではないかと思うくらい、不気味に感じた。
夏の雨の日、部活が終わった18時過ぎ頃、Sさんはその竹やぶがある道を一人歩いていた。
他の部員たちはほとんど自転車通学だったので、そこを徒歩で帰るのはその日、Sさんだけだった。
サー…
雨の降る音だけが鳴り響く帰り道はいつもより薄暗く、誰も歩いていない時間帯だったが、その時は特に気にすることもなく携帯をいじりながら歩いていた。
竹やぶ沿いの道に差し掛かった時、雨とともに強い風が後ろから吹き、傘がひっくり返りそうになった。
「うわっ」
びっくりして傘の向きを直そうとしたとき、竹やぶからパキパキという小枝が折れるような音がして、同時に背後に言い表せない気配を感じた。
色んなことが同時に起きてパニックになりながらも、後ろを振り返ると、少し離れた所に白いTシャツのような物を着た男が私にゆっくり手招きをしている姿があった。
雨が降る中、傘もささずにいる男を不気味に思ったSさんは歩く速度を早め、男が追ってきていない事を確かめようと振り返ると、男は相変わらず手招きをしていた。
「さっきより近くにいる…」
男はSさんが振り返るとその場に止まって手招きをしているが、確実に距離を詰めてきているのが分かった。男から目が離せずに動けないでいると竹やぶから聞こえた太い枝が折れるような音で、男から目を離すことが出来た。
Sさんはそのまま振り返る事無く、駅まで一心不乱に走り、そのまま帰宅した。
Sさんはその後、遅い時間は極力その道を使わなくなり、同じ場面に遭遇することもなかった。
あの男と竹やぶが関係あるのか、あれは本当に人間だったのか、今でも分かりません。それでもあの時心臓がバクバクいってた感覚は今でも忘れられませんと、Sさんは話した。