二夜目『汚れたぬいぐるみ』
これはMさんが自宅で体験した話です。
散らかし放題の居間、また娘が散らかしたまま片付けていないということに苛立ちながら、床に投げ捨てられたおもちゃをおもちゃ箱の中に入れていた。
「これ、何かしら」
普段見慣れない泥まみれのぬいぐるみがあり、Mさんは買った覚えがないので友達から借りてきたのだと思いつつ、そのぬいぐるみはあまりに汚れていたので軽く洗濯しようと洗濯機の中に入れた。
夕食の時にそのぬいぐるみのことをふと思い出して、娘に尋ねた。
「あのぬいぐるみは友達から貰ってきたの?もし借りているのならすぐに返しなさい」
「友達に借りてないし、貰ってない」
娘はなんの事か検討もついてない顔だった。
「じゃあなんで家にあるの?」
と聞くと、娘は「わからない」との一点張り。
Mさんが買った覚えのないそのぬいぐるみはうさぎのぬいぐるみなのだが、薄汚れているためあまり良くないと分かりながら、捨ててしまおうと思った事もあった。
しかしながら少し可哀想だと思うこともあり、結局その薄汚れたぬいぐるみは、洗濯してまたおもちゃ箱にしまっておく事にした。
それから数日経ち、また娘が居間を散らかしたまま外へ遊びに出て行った。いくら注意しても片付けを忘れてしまう娘の代わりにMさんが1つずつ片付けていた時。
「こんなに汚して…」
手に取ったおもちゃが泥で汚れている事に気付いた時、鳥肌が立った。先日洗濯したはずのうさぎのぬいぐるみだけが、また汚れている。なぜかすごく不気味に思えたのだ。
偶然娘が外に持って行って汚したかもしれないと自分に言い聞かせて、娘の帰りを待った。
「どうしてこのぬいぐるみをまた汚したの?おもちゃは大切にしないとダメでしょ」
「私じゃない!」
娘はとても嘘をついているようには見えなかった。娘がおもちゃを取り出した時、既にぬいぐるみは汚れていたというのだ。
Mさんはこのぬいぐるみを持っている事がとても怖くなり、ゴミと一緒に捨てるのも恐ろしくて、少し離れた所にあるこういった物の供養をしている寺に持って行くことにした。
「あぁ、これは…」
と、住職さんは何かを分かったように頷き、このぬいぐるみの持ち主について尋ねてきたが、Mさんにも全く心当たりがなかった。
そのぬいぐるみに宿っている人は幼い女の子だと住職さんから聞き、一緒に供養をすませたMさんは帰り道で、その女の子はもしかすると娘と一緒に遊びたかったのかなと思い、心の中でもう一度手を合わせた。
それ以来、娘が居間を散らかす事が減ったような気がする。