百八十八夜目『波打つ池』
これはSさんが愛知県A市で体験した話です。
私が小学生の時の事。
当時、家の近所に大池という公園に隣接しているバス釣りやアヒルの餌やりが出来る池があった。
日中は人通りが多く、近所のご老人が散歩していたり、子供が遊んでいるのだが、夜には人通りも少なくなり明かりもないので、池の水音だけが聞こえる少し気味の悪い場所。
この大池には色々な噂があり、戦争で戦死した兵隊が池に沈んでいるということ、夜に池の周りに居ると池から髪の長い女の人の幽霊が出てきて、水中に引きずり込まれるなど、他にも様々な怖い噂があった。
当時、多感な小学生であった私は週末を利用し、友人2人と3人で深夜に家を抜け出して大池に探索に行くことに。
自転車で向かう途中、後ろから微かな声で、
『イクノヲヤメナサイ…』
と、細い女性の声が聞こえた。私は隣に居る友人達に
「今、何か声聞こえなかった?」
と問いかけた。すると友人達は
「聞こえないよ。驚かすなよ」
と私を少しバカにしたような感じで笑われた。
そうしている間に大池に着き、私は何か嫌な予感がしながらも懐中電灯を持ち歩き始めた。
しばらくするとカタカタカタという異音と共に、池の反対側から波がゆっくりと押し寄せて来るのが分かった。怖くなった私は懐中電灯を波に向けると、ただの波だと思っていた波紋は、大きな女性の顔が口を開けている形に波打っていた。
友人達と私は大きな声を上げて急いで逃げ出し、その声に気づいたのか近くをパトロールしていた警察官に見つかり補導されて、両親からかなり怒られた。
普段は逃げたくなる状況だったが、当時はホッとした。
それ以来、夜に大池に行くことは無くなった。