百八十六夜目『臨海学校の肝試し』
これはSさんが福岡県I市で体験した話です。
小学校四年生の夏、臨海学校での事。
夜になると、宿泊していた旅館の上にある神社で、肝試しを行う事になった。
男女混合でそれぞれ3人ずつの6人編成で、10分おきに懐中電灯一本のみでスタートからゴールまで目指すという単純な「肝試し」だった。
いよいよ私のグループに順番が回ってきた。
時刻は19時過ぎで、夏とはいえ薄暗くなってくる時間帯になっていた。
先発グループの、「キャー、キャー」という、甲高い悲鳴が聞こえてくる。
なんでもこの神社は、心霊スポットとして有名だという噂があった。とは言うものの、実際は先生方が衣装を身にまとい、お化け役で驚かしてくるのだが。
私のグループがスタートしてしばらくたった頃。
先発グループは既に見えず、どこからも悲鳴が聞こえない静寂の中をゆっくりと進んでいると、道が二股に分かれているところにさしかかった。
矢印は右に出ているものの、その先にはおままごとをしている子供が、道を塞ぐように座っていた。
「ねえ君たち、さっきここを通った人達はどっちへ行ったかな?」
と聞くと、矢印とは反対方向を黙って指さした。私たちは、なんとなく不気味な雰囲気の子供達の横を通るのも気が引けて、私達は左側を進む事にしたのだ。
先程と変わって、舗装もろくにされていない道に何度も足を取られながら林の中を突き進んで行くと、10分ぐらい歩いた先は完全に道が無くなり、行き止まりになっていた。
ゴールのような気配も無く、迎えてくれる先生方もいない。辺りを懐中電灯の頼りない光で照らしていると、行き止まりだと思っていた少し先に石碑のようなものがあるのに気付いた。
「水子地蔵」
目を凝らしてみて、やっと読めた瞬間私達は慌てて先ほどの分かれ道まで手をつないで走って戻った。
そこには子供の姿もなく、おままごとの跡形すらなかった。
後から先生に話して旅館に確認してもらったのだが、そのコースに分かれ道などは存在せず、そんな時間に子供が居るはずもないとの事だった。
思い返してみれば、スタート地点でも聞こえていた先発グループの悲鳴が、あの道では全く聞こえなかったのを思い出して、ゾッとした。