【実話系怪談】忌奇怪会~kiki-kaikai~【本当にあった怖い話】

Twitter→https://twitter.com/kikikai76211126?s=09 怖い話を集めています。 ある程度見て頂ける人が増えたら、wordpressなどを使って原文も合わせて投稿したり、 コメントなど頂けた人気の高い話は朗読系YouTubeでも公開しようと考えています。 現在はまだまだ細々と、1日1話投稿出来れば良いかな…と。二次使用などはご相談下さい。

百六十九夜目『今日も隣がやかましい』

ぼくが都内の大学に通っていたころの話。田舎から上京して一人暮らしを始めた。ぼくの部屋はおんぼろのワンルームの一階だった。入口から入っていちばん奥が僕の部屋だった。東京は地元とは比べ物にならないくらい家賃が高いからアパートがぼろいのは覚悟していたが、ぼくにはひとつだけ悩みがあった。隣がやかましいのだ。引っ越しのあいさつに行ったときには、だれも出ないというか、何か電気の契約の札が下がっていたのでまだ越してきてなかったのかもしれないが、若いカップルだか夫婦だかが住んでいるらしく、毎晩うるさい。話し声もするし、壁になにかがぶつかるのか、ドンドン鳴るときもある。深夜にはいちゃつく声やらベットのギシギシ音まで筒抜けと来てる。大体の場合には音楽を聴いたりしてがまんしていたのだが、どうしても気になって耐えられないときにはアパートの薄い壁をコンコンと控えめにノックした。まあ、一瞬だけしんとなってから、すぐにまたにぎやかな声がするわけだが。
 ニュースで見た隣人トラブルとかで、注意しに行くと急にキレるひともいるらしいので、怖くてなかなか直接注意しに行く気にもなれない。でも、同じ家賃を払っているのに、どうしてぼくだけが我慢しないとならないのか。その日こそは思い切って、管理会社に連絡してみることにした。
 「お電話ありがとうございます。かもめ不動産、担当の石川でございます」
 受話器からは、中年の女性の声が聞こえてきた。
 「あの、すみません。モリハイツ105号室の吉田っていう者ですけど」
 「はい、吉田さま。お世話になっております。本日はいかがなさいましたか」
 「あのう、ちょっと言いにくいんですけど。近所の人がうるさくて」
 「はい、ご不便おかけしております。どのお部屋ですかね。上の階ですか」
 「いや、隣の部屋なんですけど…」
 「……」
 いや、何だよ。黙るなよ。怖いじゃないか。何かあるのか。
 「それ、本当ですか」
 「本当ですかって、こっちは実際やかましくて毎晩迷惑しているんですよ!」
 思わずぼくは声を荒げてしまった。
 「あの、お客さま、実はその、と、隣のお部屋にはどなたも入居されていないんですけれども…音は本当にお隣の部屋からでしたでしょうか…」
 「え……」
 そんなはずはない。現にいまだって派手に音が聞こえているし…。
 「いや、そんなこと言ってもいま隣から聞こえてますよ」
 「えっと、あの、こちらとしても住んでいないものはどうしようもございませんので…。本日の営業時間もまもなく終わってしまいますので、また明日ご対応させてくださいませんでしょうか…」
 「え…まあ、はい、わかりました、けど、もう一度お名前よろしいですか」
 「わたくし、い・し・か・わと申しますので…それでは、ごめんくださいませ。明日必ずこちらから電話をいたしますので」
 実は隣が住んでなかったなんて、ありきたりな怪談話みたいなことがあるはずもないだろうけれども、一応、ドアの外に出て、隣の部屋に確かに灯りが点いていることも確認した。
 「いるだろ、絶対…」

 あくる日、いくら待っても管理会社から電話はない。管理会社には、仕方なくこちらから電話をかけることにした。昨日の担当者は石川さんとか言ったな。
 「お電話ありがとうございますー。かもめ不動産、担当の矢口と申しますー」
 「あ、もしもし。昨日の夜にお電話した、モリハイツ105号室の吉田なんですけど」
 「はいー」
 「あの、昨日電話に出てくれた石川さんという方はいらっしゃいますか」
 「はい?」
 「いや、石川さんです。そちらにいらっしゃいますよね?」
 「……。少々お待ちくださいませー」
 何なんだ。電話口の間延びしたおばさんの声、どうしていま一瞬間があったんだろうか。『エリーゼのために』が流れるなか、待つこと1分ほど。
 「もしもし。お待たせいたしております。責任者の鈴木と申しますけれども。石川がなにか失礼をいたしましたでしょうか…」
 「昨日、隣の部屋がうるさいって相談しようとしたら、昨日『営業時間が終わる。明日対応する』って言って電話切れちゃったんですよ」
「ええ」
「困ってるんで、何とかしてもらえませんか」
 「ああ、それは大変ご迷惑をおかけしております。本日必ずお隣の入居者さまには私どもから注意をさせていただきます。それで…」
 「それで?」
 「吉田さまからお電話いただいたのは、昨日でおまちがいございませんでしょうか」
 「はい。確かに昨日電話して、石川さんって女性の方が出ましたけど」
 「お客さま、実はその…、昨日は弊社の定休日でございまして…」
 「え…?休日出社の社員さんかだれかだったのでは…?」
 「いえ、昨日はあいにくだれも出勤しておりませんで…その、電話に出た者は石川、とそう名乗ったのですね?」
 「え?…ええ、そうだと思いますが」
 「石川という者は…、その…、既に弊社にはおりません」

 結局のところ、その件はそれで済んだのだが、実は後日になってから気味の悪いことがあった。契約更新の話でかもめ不動産に出向いたときに、担当者だという黒川という年配の女性社員が対応してくれたのだが、そのときに聞いた話。
 「お客さん、石川さんから電話が来たんですってね」
 「え…?ああ…、確かに、だれも会社にいない日に石川って方が電話に出てくれたことが何週間か前にありましたね」
 「ほんとに来たんですね?」
 「ええ…、なにかあるんですか」
 「実はね、その石川さんってひとねえ、モリハイツの前の担当だったんですけどね、亡くなってるんですよね。営業車に乗ってる外回りしてるときに事故っちゃいましてねえ。急な事故だったし、仕事熱心なひとだったから、自分が死んじゃったってわからないで、まだがんばって働いてるのかもしれないですねえ…。あ、いやだ、ごめんなさい。こんな話したら怖いよねえ。ふふふ」

 半年もしないうちに、ぼくは30分離れた駅のところに引っ越した。