百六十七夜目『ビーナスの微笑み』
これはCさんが千葉県N市で体験した話です。
その時にお付き合いしていた彼氏と一緒に、あるセミナーに参加してその後のアフター集会にも参加して帰りが遅くなってしまい、
「もう2時になるし、眠くて車の運転が危ないからその辺のホテルに泊まろう」
と言い出した。運転免許を取ったばかりの私は高速道路の運転は自信がなかったので彼の言う通りに泊まることにしてホテルを探していた。
高速沿いにあったラブホテルは土曜日の深夜でどこも満室で3件目のホテルに空いている部屋が1部屋あり泊まることにした。入室してすぐに部屋の電話が鳴った。
「俺たちは疲れてただ寝るだけだからテレビ見ないし大丈夫です」
電話を切った彼に
「何?どうしたの?」
と聞くとテレビが壊れているから部屋を変わってほしいと言われたというのだ。
しばらくするとホテルのスタッフが直接来て部屋を案内すると言い出した。
「え?」「おかしいでしょ!」「めんどくせーなー」と文句を言いながら、仕方なく部屋を出て他の部屋へ入室した。
「1部屋しか空いてなかったのに部屋を変わるっておかしくない?」
「そうだな。ヤバいんじゃない?なんか出るとかさ?」
「やめてよ。怖いからもう~。お風呂入れてくるね」
と伝えるて浴室で湯船にお湯をはっていると
「フフッ」「フフッ」
と背後から聞こえて来た。彼氏のイタズラだろうと思い
「やめてよ!怖いからふざけないでよ」
と浴室から彼氏に声をかけると
「は?何言ってんのお前?自分で笑っておいて…」
と言いながら浴室まで来た。じゃあ一体誰が?
そう思っていると
「フフッ」
さらに大きい声で2回聞こえた。エコーがかかったような声。それは湯船の蛇口のビーナスの口からはっきり聞こえた。
二人顔を見合わせて私も彼氏も笑ってない。
「ヤバいな。出よう」
と普段動じない彼も急いで支度をして部屋を出た。フロントに行き説明しているとスタッフが「フフッ」と2回笑い無言で返金してくれた。今も古いラブホテルを見ると怖い思い出がよみがえる。