【実話系怪談】忌奇怪会~kiki-kaikai~【本当にあった怖い話】

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百十七夜目『タルパ』

これは埼玉県T市に住むHさん聞いた話です。

ある知り合いが体験した、想像上のお友達に関する話。

その知り合いを仮にAとするが、Aは想像上のお友達を作ることにハマっていた。
やり方はインターネットで知ったらしく、ネット上では一般に「タルパ」と呼ばれるものらしい。
学問の上では「イマジナリーフレンド」などとも呼ばれる。
タルパとイマジナリーフレンドが同じものなのか違うものなのか、ネット上では様々な意見があるようだがここではそれはひとまず置いておく。

Aはとっくに成人していたのだが、職場の人間関係がうまくいっていなかった。
原因は2つあるようだった。
1つは会社の業績がどんどん下がっていき、職場の人たちにも余裕がだんだんとなくなってきていたこと。
もう1つはAに発達障害があり、場の空気や暗黙の了解を理解することが難しかったこと。

例えば職場の人たちが会社を潰すまいと夜遅くまでサービス残業をしている時に、Aは露骨に嫌そうな顔をして仕事をしていた。
この会社にかつて勤めていた別の知人はそれを見て嫌な気分になったという。
そして、これは他の人たちも同じだったはずだ。
率直に言うなら、Aはこの他にも多くのことをやらかしていたので職場中の人間から嫌われていた。

一方、Aは職場には必要な人間であったという。
Aのやる仕事はひどいもので、先延ばし癖がある上に成果物のクオリティも低い。
なんなら新卒くんの方がよっぽど役に立つくらい。
はっきり言って、仕事の戦力としてはほとんど期待できなかった。

だが、Aという共通の敵がいることにより職場は団結できていたのだ。
Aは自分のいる部署だけに迷惑をかけるような人間ではなかった。
ゆえに、Aはいつも説教されたり、怒鳴られたり、時には殴られたりすることさえあったという。
要するにAは体のいいサンドバッグだったのだ。
だから、会社はAをクビにはしなかった。

だが、その役割をAがどう思うかについてまでは考えていなかった。
Aは想像上のお友達と一緒に、会社に復讐することを決めた。

Aは潜在意識やスピリチュアル系、催眠の勉強をしていたので、
毎晩寝る前にAは自らの無意識に「憎い奴は死んだ」という暗示を入れ込んだ。
想像上のお友達と一緒に斧で真っ二つにしたり、ダイナマイトで消し飛ばしたり、首を剣でちょん切ったりするのだ。

こんな話を私にしていた時のAの目は、とても満足気ながらもどこか恐ろしいものだった。
しかし、日本の法律では想像の中でやったことについては裁きようがない。
当時の私は、それをあまり気に留めなかった。

しかし、Aの呪いは現実になった。
会社は潰れ、仕事を失ったことに絶望した同僚のうちの1人が首を吊った。
さらに無理が祟ったのか大病が発覚したのが2人。うつ病はもっと多かった。
Aを最もいじめていた上司は営業中の事故から生還するも、フルタイムでの勤務はもうできないような状態になってしまった。

さらにそれだけでは終わらなかった。
それは会社の人たちだけでなく、その家族にまで波及した。
子供が補導される、捕まるといったことは序の口。
離婚したという家庭も何件かあった。

とはいえまあ、これだけなら単に「ブラック企業の歪み」と考えることもできたかもしれない。
過労状態が続けば病気にもなるだろうし、仕事ばかりで家庭を顧みなければ家庭も壊れるだろう。

だが、その後Aは引きこもりになり、家から一歩も出ることがなくなった。
心配した私は友人も連れてAの元へと向かったが、家はゴミ屋敷のようになっていた。

Aは私たちを見るなり、あいさつもせず

日本民族の無意識は自分勝手や私利私欲を許さない」

と言った。
続けて

「無意識を私利私欲のために使えばちっぽけな顕在意識が潜在意識から責め続けられ、やがて死ぬ」

とも。

私は話題をそらそうと想像上のお友達について聞いた。
それは死のう、死のうとAを誘ってくるらしい。
なんでもそれが自分の起こしてしまった波を収束させる唯一の手段なんだとか。

私たちはAをなんとか医療につなげることができたが、
薬を飲ませてもカウンセリングをしても何にも良くならなかった。
そして、あっという間に寝たきりになってしまった。

とはいえ、こんな状態になってもAの家族は悲しまなかった。
それどころかAの兄弟は笑顔でさえあった。
彼らは肉体的には家族ではあっても、精神的には家族ではなかった。障害を持ったAが邪魔だったのだ。

結局、Aはお友達と旅立つ前、私にこんな言葉を託した。

「この社会では発達持ちが笑顔で生きられる場所がない。
あいつら(会社の人たち)を殺すことは本当は望んでいなかった。
でも、そうしなければ心といっしょに魂も殺されるところだった。
こんなことを繰り返さなくていいように、発達持ちが笑顔でいられる場所を作ってくれ。頼んだぞ……」

Aの旅立ちは静かで、その時の顔は安らかなものだったという。
人はAを異常者だと言うが、本当怖いのはA以外の人間たちだったのではないだろうか。