百十六夜目『防空壕』
これはSさんが長野県長野市で体験した話です。
長野県にある松代大本営での事です。
松代大本営とは、戦時に天皇陛下の為に掘られた防空壕の跡地です。観光地として残されており、ある程度の中までは入り込むことができます。
小学生の頃、学校のレクリエーションで何故か毎年そこまで行っていました。軽い遠足のようなものです。
小学4年生の時に毎年の如く松代大本営までお散歩へ行きました。大本営の入り口は真っ暗で、ある程度の光はありますが先が見えなくなっています。みんな先生にくっつきながら足を運び、私は入りたくないと泣き出してしまった子に大丈夫だよ、と声をかけながら大本営の中に入りました。
中はトンネルのような通路が入り組んでおり、危険と判断された通路は鉄の先が見える扉のようなもので入り口を塞がれています。なお、その向こう側は電灯など全く無いため、真っ暗闇の通路が見えます。小学生にしてはかなり怖いと、今では思います。
進める通路は電灯があるため先が見えるようにはなっているものの、やはり薄暗いので不気味です。また、壁には漢字やハングル文字が刻まれていたりもします。
当時、朝鮮人を酷使し穴を掘らせていたようで、おそらく悲痛な叫びなどが刻まれているのだと思います。
怖いなぁと思いながらも進んでいると、急に
「アー…」
と声が聞こえたので、隣にいた友達に今何か喋った?と聞くと、何も喋ってないと言います。
その後も何度か同じような声が聞こえたので、怖くなって友達にしがみつきました。
防空壕の奥は行き止まりとなっており、そこから先は行けなくなっていました。
それから、行き止まりの場所には全国の訪問者が置いてあった千羽鶴が多く置かれています。2度と争いがない様、平和を願った千羽鶴です。
私達もクラスでこの日のために千羽鶴を折っておりましたので、それを飾りました。そのお陰か分かりませんが、それからは防空壕を出る最後まで声は聞こえませんでした。
そのあとその話を他の友達としたところ、その友達も聞こえたとのことです。
やはり、苦しく辛い思いをしながら過労死した朝鮮人の思いがあの防空壕の中に染み込んでいるのだなと、小学生ながら思った出来事でした。