【実話系怪談】忌奇怪会~kiki-kaikai~【本当にあった怖い話】

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九十夜目『仮説』

これはSさんが大阪府O市で体験した話です。

小学校低学年の頃、とにかく泳ぐことが好きであった。
夏になると時間を見つけては市民プールに通い、朝から夕方まで泳いでいた。
特にお気に入りだったのが流れるプール。当時としては最新式で、広い敷地内をカーブあり、急流あり、噴水ありと、
流れに乗っているだけで冒険しているような気分になれた。のんびり浮かんだり、時には流れに乗って泳いだり大げさでなく何十週も回っていた。

そんなある日、ちょっとした気まぐれを起こしてみた。
そのころ小学校のクラスでは、立ったまま身体をぐるぐる回し、平衡感覚を失った状態でどれだけまっすぐ歩けるかという遊びが流行っていた。
これを流れるプールでやったら楽しいのではないか。目が回った状態で泳ぐというのはどのような感覚なのか試してみたくなった。

さすがにプールサイドでぐるぐる回っていては監視員に注意されてしまう。水の中に入って回ってみることにした。
周りに人がいない場所まで泳ぎ進み、体を真っ直ぐに蹴伸びをした状態から、背骨を軸にきりもみ回転させた。
ひたすらドリルのように回転させてぐるぐる回り続けた。回りながら気持ちよくなって何度も何度も回り続けた。

ふと気づくと、何かがおかしい。足の着く高さのプールにいるはずなのに異様に深いプールにいるような気がする。
いくら進んでも浮かび上がれない。ものすごい力で水中に引きづりこまれている。

後になって考えれば、平衡感覚が狂い、垂直と水平方向の感覚が逆転し、水の流れる方向が上下方向に知覚されていたのだろう。
ただ、その時は全く余裕がなかった。ものすごい勢いで水中に引きづりこまれ、必死で足を動かしても水面に浮かびあがれない。
息もできない、恐怖でパニックになった。水中で「助けて!、助けて!」と思い切り叫んだ。

気がつくと、プールサイドにいた。途中経過は全く覚えていない。誰かに助けてもらったのか、自力で戻ることが出来たかもわからない。
未だ恐怖もあったが、どうして助かったのかという違和感の方が強く残っていた。

そのことがあってから、私のプールに対する情熱は薄れていった。しかし、トラウマになったわけではない。
その後も泳ぐこともあるが、それほど楽しくは無くなった。命が助かった代わりに、何か失ってしまったような気がする。

あれから何十年も経ったが、今でも不思議に思う。ひょっとしたら私の人生はあそこで終わってたのではないか、とさえ思うことがある。
その後の人生は、夢、あるいは別の世界の暮らしではないか、なんて突拍子もないことを半ば本気で考えたりもする。

毎年夏になると、あの怖かった出来事を思い出し、この不思議な仮説が私の頭をしばし悩ませる。