七十五夜目『夜中に見たもの』
これはNさんが岡山県T市で体験した話です。
その日は高校の友人4人と、当時中学生の弟を交えた6人で、我が家でお泊まり会をしていた。
中高生のお泊まり会は、当然夜遅くまで寝ずにワイワイおしゃべりやゲームなどをして過ごしていたのだ。
深夜の1時を回った頃だろうか、友人Aが
「肝試ししに行かん?」
と言い出した。
怖いもの知らずの中高生達、もちろん皆二つ返事で了承し、それぞれ自転車に跨り心霊スポットへ移動した。
そこは地元の人達の間では知らない人は居ない心霊スポットのとある公園。
住宅街からは少し離れた小高い丘の上にあり、広い運動場の端にいくつかの遊具、バスケットゴール、サッカーゴールなどがある公園で、昼間は少ないながらも人気のある場所だ。
公園の隣は斜面になっており、登っていくと溜池、その向こうは墓地になっている。
自転車で小高い丘を登り公園の入り口まできた。
私はあまり運動が得意ではないため、入り口に辿り着いたのは最後から2番目くらいだった。
「………」
何故か先に着いた友人たちは入り口付近で止まって誰も公園に入ろうとしない。
私は不審に思いながらも皆に公園に入るよう促した。
「なんしょん?はやく入ろうや」
そう言いながらみんなを急かし、ふと公園内に目をやった時、目を疑った。
バスケットゴールに向かってボールを投げている小学校低学年くらいの子供の姿があった。公園の入り口に到着した私達には気付かないくらい集中しているのか、ボールをドリブルし、ゴールへ向けて投げるのをただただ繰り返していた。
投げたボールを取りに行った後もこちらを振り返る事なくゴールの一点だけを見つめ、何度も何度も。
公園までは自宅から30分前後はかかる距離にあり、公園に到着したのは恐らく夜中の2時前頃。
そんな時間にそんなに小さな子供が1人でバスケット?
背筋を冷たいものが走りながらも、目を離せずその子の動作を眺めている間、誰も一言も発する事が出来なかった。
一体どれくらい経ったのか、その子供がふと動きを止め、こちらを振り返った。
その瞬間
「うわあああああああああ!!!」
と叫んで私と友人の1人が丘を駆け下りた。
振り返ったその子供には顔が無かった、それを認識した瞬間、私は怖くなり逃げ出した。
おそらく、一緒に逃げた友人も同じものが見えたのだろう。
それに続いて他の友人と弟も同じように悲鳴を上げながら丘を駆け下り、一目散に自宅へと逃げ帰った。
帰宅後、ホッとしたのだろうか、みんな口々に今見た物について話し出した。
「ハァ…ハァ…見た?」
「見た」
「あれはマジやばい」
「斜面を滑ってる子供がこっちに気付いて追いかけて来た」
「…は?」
私の見たものと全く違う話に混乱し、他の人にも何を見て逃げ出したのか聞くと不思議な事に、私と一緒に逃げたもう1人はバスケットをする子供を見ていたが、他の4人は溜池の斜面を段ボール滑りする子供達の姿を見ていたそうだ。
その子達がこちらに気付いて走って来たために逃げたのだと言う。
あれから14年経つが、皆変わらず元気で連絡も取り合っている。未だにあれがなんだったのかは分からない。