七十四夜目『咀嚼音』
これはKさんが福島県H市で体験した話です。
。
実家に住んでいた時のことで、家族で平凡な毎日を過ごしていた。
中学生あたりからこの家は何かおかしい、何か変だと感じることが多く、姉と一緒によく、
「今さぁ…」
と話していました。
怖いといっても些細なもので、廊下を誰かが通ったように見えたり、縁側に女性が立っているのがたまに見えたり、帰宅したら灰皿がひっくりかえっていたりするような事が時々あった。
そういった事はあまりに日常だったのでそこまで気にも止めずにいたのだが、ある日、今までとは比べ物にならない出来事に襲われた。
その日は特に変わった事もなく、普段通りに過ごしていた。
何となく寝付けず、時間は深夜3時頃まで起きていた記憶がある。
普段から夜型の生活で、不眠症もあり「また眠れないなぁ」と、ただ目を閉じていた。
やっとウトウトしてきた頃、背中にぴったりとくっつく何かの気配を感じた。
それはベッドの中に一緒に入っていて私の耳の上の髪を「くちゃくちゃ」と噛んでいるようだった。
一気に目が覚め、恐怖感でどうにかなりそうだったが、何故かソレに私が目が覚めた事は絶対に悟られてはいけないと思い、気を失うこともなく、ただ動かず恐怖に耐え続けるしかなかった。
何時間も何時間も、ずっと耳元で髪を咀嚼される音を聞き続けて、精神的にも限界を迎えそうになっていた時
「ジリリリリリ」
ようやく隣の部屋の父の朝の目覚ましの音が聞こえ、朝だ!とやっと目を開き、部屋から走って逃げ出す事が出来た。
耳の上の髪は汗なのかなんなのか、ぐっしょり濡れており、未だにあれが何だったのか分からない。