【実話系怪談】忌奇怪会~kiki-kaikai~【本当にあった怖い話】

Twitter→https://twitter.com/kikikai76211126?s=09 怖い話を集めています。 ある程度見て頂ける人が増えたら、wordpressなどを使って原文も合わせて投稿したり、 コメントなど頂けた人気の高い話は朗読系YouTubeでも公開しようと考えています。 現在はまだまだ細々と、1日1話投稿出来れば良いかな…と。二次使用などはご相談下さい。

七十三夜目『竹藪の長屋』

これはRさんが大阪府F市で体験した話です。

もともとは横浜に住んでいたのだが、中学三年のときに父親の仕事の関係で引っ越すことになったのがF市。
引っ越した先は、父親の勤める会社の社宅で、東名高速東海道本線に挟まれた、丘陵の中腹あたりに建つ二階建てのアパート。
私は、二階に自分の部屋をもらっていて、部屋の窓からは、遠く遥か東に生駒の山並みが見えていた。

私がこれからお話しする、奇妙な体験をするようになったのは、大阪に暮らして三年ほど経ったころからの事。
大学受験を控え、深夜まで勉強していた頃の事。家から少し離れた所に以前から気になっている場所があった。
その場所は、崖や鬱蒼とした竹藪、あるいは異様に高い塀などでなんとなく周囲からは隔絶されていて、行きにくい場所だった。
父親はそこがなんなのか、多少わかっていたようで、一度だけこんなことを言っていた。

「あそこには、近寄らんほうがええ」

後にも先にも、父がその場所について話したのはそれだけ。
深夜の勉強に飽きた私は、なぜか急にそこに行ってみようと思ったのだ。
私は昔から、幽霊や怪物、あるいは呪いや怨霊といったものに対する恐怖心が少なく、夜中にその場所に行くことも、ほんの散歩感覚だった。
さらに、この地域に三年も住んでいたので、竹藪を抜ければ『そこ』に行けそうだということもわかっていた。

さっそく社宅を出て、その場所に一人で向かった。真夜中だったので人気はまったくなく、そこかしこから聞こえる虫の鳴き声だけが響いていた。
竹藪は斜面に生えていて、その斜面を竹をつかみながら登りきると、視界が開けて目の前は下りになっていた。
その下りを進んでいくと、暗闇の中になにかが見えた。街灯などはまったくないのに僅かな明かりのような物が灯っている。

少しずつ近づいていくとぼんやりと見えていたのは、古い長屋のような家。
とても人が住んでいるようには思えないその長屋のような家からは明かりが漏れていた。
その光は裸電球というよりは、うす暗くゆらゆらしていてロウソクのような弱々しい光。誰もいない家に明かりが灯るわけがない、どうやら人がいるようだ。
私はその時、そこにこれ以上は近寄らないほうがいいように感じた。なぜそう感じたのかは、今でもわからない。
私はそのまま来た道を引き返し社宅に帰った。

奇妙な体験はこのあとから始まった。
その場所に行ってから数日してからのこと、部屋のベッドで夜寝ていると

『キィーン』

という金属音が聞こえていることに気がつき、目を覚ました。
その音は最初は遠くから、そして段々近づいてくるような感じで大きく聞こえてきた。
その異変に驚き、体を動かそうとしたのまが動かない。身動きが出来ない初めての感覚に動揺したが、その時はそのまま意識を失っていた。
朝起きてそのことを思い出したが、夢だったのか現実だったのか、その時ははっきりしなかった。
しかしその現象は、それ以降頻繁に起こるようになり、私はこれが世に言う『金縛り』ってやつかと認識した。

しかし、金縛りが起こると動揺してもがこうとするのだが、いつのまにか意識を失っていて、気がつくと朝になっている。これを繰り返し体験した。
そうこうしている内に高校を卒業し、予想どおり浪人となった私は、再び父親の仕事の関係で、引っ越すことになった。
今度の引っ越し先は、東京の田園都市線沿線の近くで、大阪と同じく社宅のアパート。
引っ越して、まだ荷物の整理もつかない直ぐのこと。夜、自分の部屋で寝ていると、いつものように、金縛りの前兆の『キィーン』という金属音で目を覚ました。
金縛りはあれ以降、何回も経験していたので、そのときはいつになく冷静で、私はこの現象がなんなのか、確かめてみようとした。

そこでまず、本当に体が動かないのかを確認。
手と腕そして足、頭、目、口。どこを動かそうとしてもビクともしなかった。
そんなことを調べていると、さっきまで聞こえていた例の金属音がいつの間にか止んでいる。
その異変に『ん……?』と思った次の瞬間。

「ガタガタガタ」

という地響きのような音が聞こえてきた。その音は段々と大きくなっていき、私は自分に起こっているある異変に気付いた。ベッドで寝ているはずの私の上半身が、序々にベッドから起き上っている。
それまで冷静だった私は、上半身がどんどん起き上ってくることに、焦りと恐怖心を感じていた。
『息はしているから声は出るんじゃないか?』そう考えて、息をすって声を出そうとしたが、息だけが抜けてしまって声にならない。
そうしている内にも上半身は既に座っている状態まで起き上がっている。

「やばい――このままじゃ、どっかに連れていかれる!」

必死になって私は声を出そうとしますが、それでも『はっ、はっ』と息だけが抜けていく。
それでも諦めずに繰り返していると、なんとか言葉にならない音が声帯から出たのを感じた。
その音が出ると同時に、嘘のように金縛りからは解放されたのだ。そのとき私はベッドに寝ている状態だった。

「上半身が起きあがっていたあの感覚はなんだったんだろう?」

私は直ぐに起きると、ベッドの上であぐらをかいて、今、起こっていたことが夢ではなかったのだと、しっかりと確かめていた。その時、鼻の下から上唇にかけてなにか液体が伝わっている感じがした。鼻水かな?と反射的に手で鼻を拭うとそれは鼻水ではなく、真っ赤な鼻血だった。

もしかしたらあの時、私の魂は、私の体から抜け出てしまうところだったのかもしれないと――幽体離脱しかけていたのかもしれないと、何となく感じていた。

その出来事以降、私は一度も金縛りには遭っていない。あの場所に行ったことと、金縛りとの因果関係もはっきりとはしていない。
『あそこには、近寄らんほうがええ』と話していた父親も既に他界しているので、真相を確かめる術はもうないのだ。