七十夜目『ホテルの御札』

これはＳさんが長崎県N市で体験した話です。

10年ほど前の事。私は仕事の都合上出張が多く、毎月色んな場所のビジネスホテルに宿泊している。
今回はその中で体験した話をしたいと思う。
長崎県N市にあるビジネスホテルで、玄関は南向きで、日当たりもよく綺麗なホテルに宿泊した。
しかし、私が通された部屋は北側の日も当たらない昼間なのに少し薄暗い部屋だった。
日中帯は仕事で、寝るだけに使う部屋なので特に気にせずに一週間泊まる事にした。
出張が多いせいか、部屋に入ると私は決まって掛け軸の裏や、壺の中、押し入れの簀子の裏、下駄箱の中を見て御札を探してしまう癖がある。霊が出る部屋には御札等が貼ってあると聞いたことがあるが、毎年全国各地回っていても、一度も見たことがない。

次の日仕事を終えて、帰宅するとスリッパが片方ひっくり返っていた。
清掃の方が引っ掛けてしまったのかと思い温泉に向かった。
次の日も仕事に向かって、帰宅するとまたスリッパがひっくり返っていた。少し気味の悪さを感じたが、特に害は無いのでそのまま宿泊をした。
そして毎日スリッパがひっくり返されて5日目の夜中、部屋を何かが引きずってる音で目が覚めた。

｢ザザッ…ズー、ザザッ…ズー｣

何かがほふく前進で進んでるような不気味な音だった。怖くなり布団を被って怯えていたがいつの間にか朝になり仕事に向かう事にした。

(昨日のは夢だったのか現実だったのか…)

そんな事をずっと考えながら最終日を迎えた。この日は仕事が押してしまい夜中に帰宅する事になった。
すると毎日片方ひっくり返っていたスリッパが両方ひっくり返っていた。
昨日の事もあり、とても嫌な予感がしたが、夜中の2時過ぎに｢スリッパがひっくり返ってる｣なんてフロントに言った所で…。そう思い、朝まで寝ずに乗り切る事にした。この時間では温泉もやっていなかったので、ホテルに宿泊して初めて部屋風呂に浸かる事にした。
昨日の出来事やスリッパの事を考えながら上を向くと換気扇の奥の方に見えた。たくさんの御札が貼られているのを。