四十四夜目『訪ねてくる人たち』
これはYさんが東京都E区で体験した話です。
とある診療所に勤めていた時の事。医療事務として働き始めて数年後、看護助手の方が退職されてYさんが医療事務と兼務で看護助手をやることになった。
最初は仕事を覚えることで必死だったが、少しずつ慣れてきた頃、玄関から入ってくる簀の子を踏む音とともに
「こんにちは~」
と聞こえたので、挨拶しながら玄関のほうを見ると誰もいない。
すぐさま事務長に話をすると、事務長も何度も聞こえているとのこと。昔この診療所で手術や入院の患者さんも出入りしていて、その中には亡くなった方々もいたそうだ。
「きっと、その方々が来院しているのではないか」
ということだった。毎日ではないけれど、この現象は続いたそうだ。
また別の日では、診察室内にて医療器具の洗浄をしていると
「こんにちは~」
と女性の声で診察室に入ってくる気配を背後に感じた。
「こんにちは」
と振り返ると誰もおらず。この時、一緒にいた看護師さんも診察室に入ってくる女性の声が聞こえ診察室隣のマッサージ室から出てきた。ハッキリ声が聞こえたのに誰もいないことに、二人で目を丸くして驚いた。
目の前にいた院長は、何事かとYさんたちの言動に驚いていた。院長はなぜか誰の声も聞こえなかったし気配も感じなかったとのことだった。
一番不思議だったのは、事務室から診察室に行こうと下半分開いた暖簾の前に来た時、診察室から待合室のほうに行く足元が見え、その容姿や履いている靴下・制服の色等、見覚えがあった。
「あれは…私?」
診察室に行って、院長や看護師さんに待合室のほうに行ったか話を聞いたが誰も行ってないと。何故、自分の姿が見えたかは謎のままだ。