三十四夜目『別れの時』
これはMさんが北海道O市で体験した話です。
Mさんの実家は北海道のO市にあり、公務員を退職した父が新居完成までの間に合わせで借りた築20数年の木造2階建て4LDKの家で、外観はともかく内装はかなり老築化していた。当時Mさんは職場環境のストレスから体調を崩し、長期休職して実家での静養生活を送っていたそうだ。
そんな中、小さな頃から本当に良く可愛いがってくれた叔母さんが、体調を崩し緊急入院する事になった。
車で10分ほどの所に住んでいた叔母は、生涯独身で過ごし祖母を10年ほど在宅介護をしていた優しい女性で、その叔母の緊急入院の為の手続きはMさんが息子代わりとして全て行った。
入院した叔母は連日の様に検査が続き、1週間経っても主治医からの詳しい説明もなく、痺れを切らしたMさんが主治医に問い質した所
「呼吸器官に重度の異常が見られるが、原因不明の為治療方法が解らない」
と言う言葉が返ってきた。地方都市の基幹病院の医師とは思えない軽い言い方に苛立ちを覚えたそうだ。
その後も検査だけ続き症状は一向に改善されないまま入院後半月で叔母は亡くなった。
急遽親戚一同に連絡をとり、数十人の親族だけの葬儀を行う事になった。通夜の晩、Mさんは一度実家に戻り両親が預かっていた叔母の私物の中から、叔母の大切にしていた品々を選び出す作業をしていると、叔母との思い出が蘇り、自然と涙が溢れてしまった。
トン、トン、トン
2階から誰かが降りてくる足音が聞こえたが、実家にはMさんしかいないはずなのに、足音が止まって誰かが後ろに立っている気配がしたそうだ。
直感として叔母だと思ったMさんは心の中で「荷物は必ず持って行くから」と呟き、急いで葬儀式場に戻った。
安置室で横になっている叔母の枕元に荷物を置いた時、叔母が日頃付けていた香水の香りが鼻をかすめた。